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電線・ケーブルの許容電流の計算

許容電流の計算は非常に複雑で大変なので、一覧表の値を使用することをお勧めします。

電線・ケーブルの許容電流とは、通電によって電線が発熱しても、その温度上昇が一定の範囲内に収まるように定められた電流値です。これにより、電線の性能を損なうことなく、所定の寿命まで安全に使用することができます。

許容電流は、配列、条数、布設方法、周囲温度、被覆・絶縁材料などの使用条件によって大きく異なります。計算はJCS 0168(日本電線工業会規格)に基づいて行われますが、条件ごとの計算には時間がかかるため、一般にはケーブルメーカーが示す標準条件下での許容電流一覧表が用いられます。

今回は、電力ケーブルの許容電流の算出がどのように行われるかを解説していきます。
詳細な内容が知りたい方は、JCSの1000番台未満に各種電線・ケーブルの許容電流の資料が販売されているのでそちらを確認してください。

一般社団法人日本電線工業会

目次

許容電流の計算式

敷設条件によって、以下の3つの式があり、この式に当てはめる各種条件をさらに計算していきます。

許容電流の計算式

直埋、管路敷設およびトラフ敷設

\( I = \sqrt{ \displaystyle \frac{T_1 – T_2 – T_d}{n \times r \times R_{th}} } \)

気中および暗渠敷設

\( I = \eta_o \sqrt{ \displaystyle \frac{T_1 – T_2 – T_d}{n \times r \times R_{th}} } \)

架空敷設

\( I = \sqrt{ \displaystyle \frac{T_1 – T_2 – T_d – T_s}{n \times r \times R_{th}} } \)

\(n\):ケーブル線心数
ただし、トリプレックス形ケーブルの場合は \( n = 1\) とする
\(r\):交流導体抵抗 [\( \rm \Omega / cm \)]
\(T_1\):導体許容最高温度 [℃]
\(T_2\):基底温度 [℃]
\(T_d\):誘電体損失による温度上昇 [℃]
\(T_s\):日射による温度上昇 [℃]
\(R_th\):全熱抵抗 [℃ \( \rm \cdot cm / W \)]
\(\eta_o\):多条布設の場合の低減率

交流導体抵抗\(r\)

計算式

\( r = r_0 \times \rm{k_1} \times \rm{k_2} \)

\(r_0\):\( 20 \)[℃] における直流抵抗

\(\rm k_1\):\(T_1\)[℃] における直流抵抗と\(r_0\)の比
   \( \rm{k_1} = 1 + \alpha\times \left( T_1 -20 \right) \)
   \( \alpha\) :銅線 0.00393,アルミ線 0.00403

\(\rm k_2\):交流抵抗と直流抵抗の比
   \( \rm{k_2} = 1 + \lambda_S + \lambda_P \)

   \( \lambda_S = \displaystyle \frac{x^4}{192+0.8x^4} \)

   \( \lambda_P = \displaystyle \frac{x’^4}{192+0.8x’^4} \times \alpha ^2 \left\{ 0.312 \alpha ^2 + \displaystyle \frac{1.18}{\displaystyle \frac{x’^4}{192+0.8x’^4}+0.27} \right\} \)

ここで、\(x\) ,\(x’\),\(\alpha\)は以下の式で求めらます。(ただし、\(x\),\(x’\)は0.28未満とする。)

\( x = \sqrt{ \displaystyle \frac{8 \pi f \cdot k_s \cdot \mu_s}{r_0 k_1 \times 10^9}} \)

\( x’ = 0.894x \)

\( \alpha = \displaystyle \frac{d_1}{S} \)

各定数は以下のようになります。
\( f\):周波数
\( k_s \):円形導体 1,4分割導体 0.44,6分割導体 0.39
\( k_1\):\(T_1\)[℃] における直流抵抗と\(r_0\)の比
     \( \rm{k_1} = 1 + \alpha\times \left( T_1 -20 \right) \)
                 \( \alpha\) :銅線 0.00393,アルミ線 0.00403
\( \mu_s \):導体の比誘電率(通常銅,アルミでは\(\mu_s = 1\))
\( d_1 \):導体外径,扇形導体の場合は同じ面積の円形導体の径を採用する
\( S \):ケーブルを敷設するときの導体中心間隔

導体最高許容温度\(T_1\)

導体の最高許容温度は使用する絶縁体の種類によって異なります。主な絶縁体の最高許容温度は以下になります。

種類最高許容温度 [℃]
エチレンプロピレンケーブル80
天然ゴムケーブル60
ポリエチレンケーブル75
架橋ポリエチレンケーブル90
ビニルケーブル60
キャンブリックケーブル80
ケイ素ゴムケーブル180

基底温度\(T_2\)

布設方法における基底温度は以下のように定められています。

布設方法基底温度 [℃]
管路25
直埋25
気中および暗渠40
水底25

誘電体損失による温度上昇\(T_d\)

誘電体損失による温度上昇は布設方法により、以下の式で算出されます。ただし、11kV以下のケーブルでは無視してよいとされています。

誘電体損失による温度上昇の計算式

直埋敷設

\( T_d = W_d \left( \displaystyle \frac{1}{2}R_1 + R_2 + R_5 \right) \)

管路敷設

\( T_d = W_d \left( \displaystyle \frac{1}{2}R_1 + R_2 + R_3 + R_5 \right) \)

気中敷設,暗渠敷設,架空ケーブル

\( T_d = W_d \left( \displaystyle \frac{1}{2}R_1 + R_2 + R_3 \right) \)

各定数は以下のようになります。

誘電体損\(W_d\)
\( W_d = 2 \pi f C n \displaystyle \frac{E^2}{3} \cdot \tan\delta \times10^{-5} \)

\(f\):周波数
\(C\):静電容量 \( [\mu \rm{ F / km} ] \)
   \( C = \displaystyle \frac{\varepsilon}{2 \log_e \displaystyle \frac{d_2^{\prime}}{d_1^{\prime}}} \times \displaystyle \frac{1}{9} \)

\(n\):線心数
\(E\):線間最高電圧\([ \rm kV ]\)
\(\tan\delta\):誘電正接

種類\(\tan\delta\)誘電率\(\varepsilon\)
架橋ポリエチレンケーブル0.0012.3

絶縁体の熱抵抗\(R_1\)

計算式

単芯ケーブル

\(R_1 = \displaystyle \frac{\rho_1}{2\pi} \log_e\displaystyle \frac{d_2}{d_1} \)

多芯ケーブル

\(R_1 = \displaystyle \frac{\rho_1 G_1 \eta_1}{2 \pi n} \)

各定数は以下のようになります。

\(\rho_1\):絶縁体の固有熱抵抗 [℃ \( \rm \cdot cm / W \) ]
主な絶縁体の固有熱抵抗

種類固有熱抵抗
天然ゴム500
クロロプレンゴム500
ポリエチレン450
架橋ポリエチレン450
ビニル600

\(d_1\):導体外径\( \rm[ mm]\)
\(d_2\):絶縁体外径\( \rm [mm]\)
\(G_1\):形状係数 シモンズの曲線より読み取る
\(\eta_1\):遮蔽による低減率
   鉛被およびアルミ被紙ケーブル:金属テープ 0.6
   その他ケーブル 1.0

ケーブル外装の熱抵抗\(R_2\)

計算式

鉛被およびアルミ被ケーブル,鋼帯がい装ケーブル,ゴム・プラスチックケーブルの場合

\(R_2 = \displaystyle \frac{\rho_2}{2 \pi} log_e\displaystyle \frac{d_4}{d_3} \)

各定数は以下のようになります。
\(\rho_2\):外装部の固有熱抵抗 [℃\( \rm \cdot cm / W \)]
主な絶縁体の固有熱抵抗

種類固有熱抵抗
天然ゴム500
クロロプレンゴム500
ポリエチレン450
架橋ポリエチレン450
ビニル600
金属1300

\(d_3\):外装下径\( \rm [mm]\)
\(d_4\):外装外径\( \rm [mm]\)

表面放散熱抵抗\(R_3\)

布設条件によって算出式が異なります。代表的な例を2つ以下に示します。

計算式

1孔1条布設

\(R_3 = \displaystyle \frac{10 \rho_3}{\pi d_5} \)

1孔3条布設(3条俵積みおよびトリプレックス形ケーブル)

\(R_3 = \displaystyle \frac{30 \rho_3}{\pi d_5} \)

各定数は以下のようになります。
\(\rho\):表面放散固有熱抵抗 [℃ \( \rm \cdot cm / W \)]

種類表面放散固有熱抵抗
金属1300 or ( 500 + 20\(d_5\)  \(d_5 \leqq 40\) )
クロロプレンゴム900 or ( 500 + 10\(d_5\)  \(d_5 \leqq 40\) )
ポリエチレン900 or ( 500 + 10\(d_5\)  \(d_5 \leqq 40\) )
ビニル900 or ( 500 + 10\(d_5\)  \(d_5 \leqq 40\) )

\(d_5\):ケーブル外径\(\rm [mm]\)
   (トリプレックス形および3条俵積形では包絡円径)

トラフの熱抵抗\(R_5\)

トラフの設置条件によって算出式が異なりますので、代表例を1つ記載します。

計算式

トラフが棚上に独立布設された場合

\(R_5 = \displaystyle \frac{M_t \cdot g_t}{2\pi} \log_e \displaystyle \frac{ \sqrt{h_t \cdot W_t} }{d_5} \)

各定数は以下のようになります。

\(W_t\):トラフの外幅\( \rm [mm]\)
\(h_t\):トラフの外高\( \rm [mm]\)
\(d_5\):ケーブル外径\( \rm [mm]\)
   (ただし、3条俵積布設の場合は包絡円径を使用する)
\(g_t\):砂およびトラフの固有熱抵抗 [℃\( \rm \cdot cm / W \)]

種類固有熱抵抗
コンクリート(軽)110
コンクリート(重)70
砂およびトラフ(屋内)200
砂およびトラフ(屋外)300

\(M_t\):トラフ内ケーブル条数

日射による温度上昇\(T_s\)

日射による温度上昇は以下の式で算出します。

計算式

\( T_s = C_s W_s d_5 R_3 \times \displaystyle \frac{1}{M_a} \times 10^{-1} \)

各定数は以下のようになります。
\(d_5\):ケーブル外径\( \rm [mm]\)
\(C_s\):輻射係数 0.9
\(W_s\):日射量 \( \left( 0.1 \rm [W/cm^2] \right) \)
\(M_a\):ケーブル条数

全熱抵抗\(R_th\)

布設方法によって算出式が異なるため、ここでは代表的な布設方法による式を記載します。

全熱抵抗の計算式

直埋布設

\( R_th = R_1 + \left( 1+P_s \right)  \left( R_2 + L_f R_5 \right) \)

管路布設

\( R_th = R_1 + \left( 1+P_s \right)  \left( R_2 +R_3 + L_f R_5 \right) \)

気中布設、暗渠布設、架空ケーブル

\( R_th = R_1 + \left( 1+P_s \right)  \left( R_2 + R_3 \right) \)

各定数は以下のようになります。

\(P_s\):シース損失

発生する損失と導体に発生する損失の比

\( P_s = P_1 + P_2 = \displaystyle \frac{W_{s1}}{W_c} + \displaystyle \frac{W_s2}{W_c} \)

\(W_c\):導体損失\( \rm [W/cm]\)
\(W_s1\):シース回路損失\( \rm [W/cm]\)
   単芯ケーブルをシース接地式で使用する場合のみ計算する。
   シース絶縁式や多芯ケーブルの場合は計算しない。
\(W_s2\):シース渦電流損失\( \rm [W/cm]\)

\(L_f\):損失率 

一般送・配電線では、0.6~0.8としている。
負荷率\(\alpha\)から計算する場合は、以下の式で算出できます。

\( L_f = 0.3 \times \left( \alpha \right) + 0.7 \times \left( \alpha \right)^2 \)

低減率\(\eta_o\)

逓減率はケーブルの配列方法から、以下の表を参考に決定します。

参考リンク

矢崎エナジーシステム 電線

directory_03-2.pdf

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この記事を書いた人

SS電気エンジニアのアバター SS電気エンジニア プラント電気エンジニア

未経験から化学プラントの電気エンジニアに転職。
日々の業務をこなす中で疑問に思ったことや質問されたことなどをメモとしてまとめています。
所有資格:第2種電気主任技術者、第1種電気工事

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